こんにちは。中川です。
[日本には素晴らしい技術がたくさんある] きっと一度は耳にしたことがあるフレーズですね。
例えば靴職人の花田優一氏など。職人に密着したTV番組なども数多く放送されています。

世界最高レベルの技術が職人の方々にあるのは間違いありません。
だからこそ日本だけに留まるのではなく、世界への進出にもっと積極的になっていいはずなのではないでしょうか。
それも[どこかのブランドの部品としてなどではなく]です。
自らが表舞台に立ち、世界中の誰もが知るような一流ブランドを目指して。
やり方次第ではそれを達成出来るだけの素質を十分に持っていると考えられます。

では一体その【やり方】とはいったいどのような方法なのでしょうか。

日本は世界一の老舗企業大国

日本の会社にはビジョンやストーリーが無いのでしょうか。実は決してそんなことはありません。
それどころか、世界にある創業200年以上の企業のうち、約50%を日本の会社が占めています。
そのことを見ると、欧米の名だたるブランド達よりも必ず深い歴史が隠されているはずなのです。

ストーリーはどの企業も確実に存在してますが、実はそれが伝わっていません。
それは「技術=価値」だと思っているからかもしれません。おそらく、価値の変遷にまだ気付いていないのでしょう。
伝える努力をしていないのだとしたら、非常にもったいないことだと思いませんか?

歴史と伝統の使い方
そんな日本の老舗企業を尻目に、古くからブランドストーリーの構築を最重要視してきたのが、ラグジュアリーブランドと呼ばれるアパレルブランドです。
最初は小さな工房などからスタートさせ、実は創業したのはここ150年と、日本の老舗企業に比べるとまだ日は浅いです。
しかし、彼らは歴史や伝統の使い方が非常に上手です。
例えばルイ・ヴィトンが旅行鞄メーカーから始まったことや、エルメスが元馬具メーカーだったことは誰もが一度は聞いた事があるでしょう。

ルイ・ヴィトンの例
彼らは旅行鞄メーカーとして創業したという「ブランドストーリー」を「旅」というテーマにまで昇華させ、
それを『ヴィトンらしさ』として掲げている。そうすることにより、旅行鞄だけではなく衣服や靴、財布など
『ヴィトンらしい』ライフスタイルそのものを提案することに成功しています。

彼らの手掛けるものはもはやアパレル企業を完全に越えてきています。
2013年に初となる家具コレクションを提案した際、佐藤オオキ氏が設立したデザインオフィス「nendo」と共に、LEDと充電池を使用した巻いて持ち運べる革一枚の照明器具を発表し話題となりました。これも『ヴィトンらしい』照明とは何かを考えた上での作品です。

実はこの「旅」というテーマには、「人生そのものこそが旅だ」というメッセージも隠されている事にお気づきでしょうか?
ソ連最後の書記長であるミハエル・ゴルバチョフ氏が、モノグラムのボストンバッグと共にベルリンの壁を通り過ぎる広告をあなたは見たことがありますか?
[なぜ人は旅をするのか。世界を知るため?それともそれを変えるため?]というキャッチコピーと共に、社会主義国の象徴が民主主義の象徴とも言えるラグジュアリーブランドのかばんを持っている姿は、ただただ技術やデザインを宣伝するよりも、はるかに大きなインパクトを与えたに違いない。
このルイ・ヴィトンの例のように、ストーリーによって消費者の心を掴む動きがすでに様々な業界で起こり始めている現状に気付いてください。

圧倒的なAppleブランドを生み出したもの

The Best Brands are Built on Great Stories.
素晴らしいブランドは素晴らしいストーリーにもとづいて作られる
—Ian Rowden, CMO, Virgin Group

今や世界のブランド価値ランキング第1位に君臨しているアップルも、ストーリーによって今の地位を築き上げたと言っても過言ではありません。
創業者であるスティーブ・ジョブズが自身の役割をマネージャーではなく、Keeper of the Vision(ビジョンを保ち続ける者))と呼ぶように、彼らはビジョンの共有を非常に大切にしています。

もちろん、MacやiPhone、iPodなど、彼らの生み出してきた製品は機能的にもデザイン的にも非常にクオリティの高いものばかり。
しかし、もしそれだけならば、SonyやSamsungなど他の競合達にも付け入る隙があったはずですよね。
少なくとも、新製品発売の何日も前から長蛇の列が生まれるようなことは無かったでしょう。

ここまでのアップルブランドを確立させたのは何か+αがあったに違いありません。それこそが私が最も重要視している【ストーリー】なのです。

MacもiPhoneもiPodも手段に過ぎない
消費者が望んでいる[売れる製品]を作るのは、企業として当たり前のことです。アップルも例外ではありません。
しかしそれだけではなく、彼らは製品を彼らのMission=信念を伝えるためのツールとして提供しています。
これは製品そのものを提供している他の競合とは大きな違いです。
彼らは売るためにMacやiPodを作ったというよりも、【伝えたいことを伝えるためにMacやiPodが必要だった】という言う方が適切ですね。

例えば、日本の企業をはじめとする他の競合が当時の消費者のニーズだった「軽くて持ち運びやすい音楽プレーヤー」を作っていた中、
アップルは「重くて大きい音楽プレーヤー」を発売した。それも信じられないほど強気の価格設定。これが初代iPodです。
アップルが【音楽を楽しんで欲しい】という想いを乗せたiPodは、重さも値段も関係なく市場に受け入れられました。

ブランドとはストーリーそのもの
ルイ・ヴィトンやアップルだけではありません。
今多くの分野において、ブランド価値が高い企業とそうでない企業の差別化を担っているのは製品ではなく、そういったビジョンへの共感や価値観の共有といった【ストーリー】の部分にこそあるのです。お分かりでしょうか?

 

決してその製品の良さではなく、彼らが提供するものは彼らのMission=信念です。製品はそれを伝える媒体でしかありません。
アップルでマーケティングを担当し、スティーブ・ジョブズ氏とも共に働いたAlessandra Ghini氏はこう語っています。

It’s easy to fall into features and facts,but Apple’s brand was about the story.
プロダクトの見た目や性能に目が行きがちだけど、実はアップルのブランドとはストーリーそのものなのです

 

ストーリーの作り方

「Why」こそがアイデンティティ
では現代のブランディングにおける鍵となるストーリーとは一体どのように生み出されるのでしょうか。
それは「何を信じているのか・なぜその製品を作るのか」という「Why」の部分を確立させるところから始まります。
なぜならその「Why」こそが、そのブランドのアイデンティティとなって消費者の心を掴み、その会社を「特別なもの」にするからです。

「何を信じているのか・何を伝えたいのか・何をしたいのか」
そんな質問によって浮き上がってくる「なぜそれを作るのか」という根源の価値観を再確認することで「ストーリー」は浮かび上がってきます。

ストーリーをデザインするということ
しかし、「良い物を作れば自然と世の中に伝わる」と言うことが世界基準では起こりえないことと同様に
「ストーリーによって確立されたアイデンティティによる素晴らしいビジョンは勝手に世の中に出回り、勝手に消費者達の心に響いていく」
なんてことはありません。つまり、どんな素晴らしいビジョンも消費者とシェア出来ていなければそこに価値が生まれることはありません。

世の中に発信した際、価値観を共有出来るようにするにはストーリーを消費者にわかりやすい形に変換する必要があります。
それがストーリーをデザインするということに直結します。

「ストーリーは出汁と同様にユーザーが食べやすいように調理をする必要がある。顧客やメディアが話したくなるストーリーにしなければならない。」とある方は語っています。ストーリーを出汁に例えることで、どんな美味しいストーリーも世の中へと伝えられるようなものでなければ価値を持たないと言う意味です。

すべてのブランディングはアイデンティティの確立から始まる

まずは「Why」によって浮き上がってくる自らのアイデンティティを基にビジョンを確立させること。そしてそのビジョンに消費者が共感し、周りの人と共有したいと思わせる為にはどうしたらいいのか。そんなことを考えることが現在のブランディングにおける最も重要な問題です。

Why → How → What
30年前までは「What」(何を)という機能や技術だけで価値を生み出せていました。
やがて「How」(どのように)というデザイン的な価値が重視され始め、現在では「Why」(なぜ)というストーリー・意味性というところまで無ければ他の企業との差別化を図れず、ブランドとして消費者に認知されることは非常に難しくなって来ています。
世界でブランドとして成功するためには共感が必要不可欠な時代なのです。

 

まとめ

「ひたすら良い物を作り続ける」これが必要不可欠な精神であることには間違いないです。
しかし、それはブランドとして世界で成功するには必要最低条件でしかありません。
情報化社会によって国際間の距離がずっと近くなった現在において、武器が技術だけでは不十分なのです。

・あなたは素晴らしい技術を伝えるために製品を作るのですか?
・伝えたいことを伝えるために、その素晴らしい技術を使って製品を作るのですか?